お向かいの家のNちゃん(2歳)は赤ちゃんのときからよく泣く。
お母さんに抱っこされていても泣いている。
抱えたNちゃんをゆさゆさと揺らしながら途方に暮れる若いお母さんの背中を見て、「ママも泣きたくなるよねぇ」と思ったことも一度や二度ではない。
最近、Nちゃんは言葉が増えてきたため、泣きながらも何かを主張するようになった。
ママー、抱っこーなどという声が聞こえる。
しかし、寝起きなどはまだ頭が回らないのか、今までと同様、大声で泣くだけだ。
*
今朝は、ぐにゃりとゆるい地震があった。
私と娘は、念の為家の外へ退避した。
夫は爆睡w
しばらく外にいたら、Nちゃんの大泣きが聞こえてきた。
揺れた大地もびっくりの泣きようである。
そこそこ長い間泣いているので、様子を見に行った。
Nちゃんちの前で、お母さんが「シッ、黙りなさい」と言っているのが聞こえた。
あぁお母さんがそばにいるんだな。
だったら大丈夫。
そう思って、Nちゃんの顔を見ずに家に戻ってきた。
*
でも、なんだか心がザワザワしていた。
そうだ、私はあの「シッ、黙りさない」というのがあまり好きではないんだ。
ロンボクのお母さんたちは子どもが泣くと「静かにしなさい」「黙りなさい」と言うことが多い。
でもね、私はそれを聞くたびに思うんだ。
黙りなさい、だなんて無理だよ。
伝えたいことがあるから泣いているんだもの…。
だけど、私が気になっているのはそのことではない。
私も近頃、娘が泣き出すとよく「そんなことで泣かないの!」と言っているのだ。
そして、私はそう言うたびに思うんだ。
泣かないの、だなんて無理だよ。
伝えたいことがあるから泣いているんだよ。
本当は、私はなんで泣いているのかを理解しないといけないのに…。
でもそれができない私。
ああー、私がほかの親たちをわずかにだが確実に批判しているその声が、自分にも刺さってくる…。
*
なんだか心が痛くなってきたので、当の娘の意見を聞いてみることにした。
「プーちゃん、Nちゃんさ、黙りなさいってママに言われてたよ。でも泣き止んでないでしょ。どうすればNちゃんは泣き止むのかな?」
「それはねぇ、Nちゃんのママがパソコンを持ってたらいいよね」
「パソコン?」
「うん。Nちゃんはまだ小さいでしょ。そんな小さな子の言葉や赤ちゃんの言葉が翻訳されて出てくるパソコン。泣いてワーワー言ってたらなんて言ってるのかが大人の言葉で出てくるの。それを持ってたらいいのに」
おお、ドラえもんっぽい世界だな。
でも、やっぱり泣いてる理由を理解したほうがいいんだ!
「なるほど、つまりなぜ泣いているかをママが理解すればいいんだね」
「うん」
「じゃあ、プーちゃんが泣いてるときに、ママがよく『もう泣かないの』って言うけど、ああいうときも、泣いている理由を理解してほしいの?」
「ううん…」
「あれ?違うの? じゃあ本当はなんて言ってほしい?どうしてほしい?」
「スマホ…」
「え?」
「スマホくれたら泣かない」
「んん?」
「プーちゃんはスマホ(で動画を閲覧したりゲームをしたりするのが)好きだから、スマホ渡してくれたら泣かない」
「そうなの?」
「ママのハグは?」
「うん、それでもいいよ」
「おやつは?」
「うん、それもいい」
「なんで泣いてるのかは理解されなくてもいいの?」
「(理解されなくても)いい。言いたくない時もあるし。」
「そうかぁ。つまり、プーちゃんの好きなものをよこせってこと?」
「うん」
そうなのか…。
私には何か釈然としない気持ちが残った。
そっか、自分が見当はずれだったことに落ち込んでいるんだな。
私はこれまで、私が娘の泣いている理由を理解したら娘は喜ぶ(泣き止む)と思っていたけど、いや違うな、親はそうすべきだと思っていたけど、そうじゃなかったんだもんな。私の「正しい」が崩れたんだ。
まぁでも、そうかぁ、そうなのかなぁ。
私は少し呆然としながら考えた。
プーちゃんは、怒られるのは嫌いだ。
そして、スマホが好きだ。
嫌いなものじゃなくて好きなものがほしいよね。
そりゃそうだなぁ。
プーちゃんはこうしたら泣き止む(喜ぶ)はずって思ってたのは独りよがりだったんだなぁ。
うーむ、知ってよかった!
きっとどうしてほしいのかなんて、その時々で違うだろうけど。
そして娘がこうしてほしいと思っていることに、私が同意できない場合もあるだろうけど。
まぁ、その時はその時だな。
お互いに泣いたり喚いたりぶつかったりしながら二人(+パパ)で成長すればいいか。
なんかお向かいのNちゃんが泣いたことでずいぶん遠い着地点へ来ちゃったな。
さっきのパソコン翻訳の話はいったいなんだったのだろう?
わからないや。
だけど、ここ最近気になっていた「『泣かないの』って言いすぎなんじゃない、私?」をゆっくり考えるきっかけになった。よかった。
私は「泣かないの」って言いすぎてる自分にダメ出ししてたんだな。
うん、そうだ。
だって、私は私が小さいときに「泣くな」って言われるの辛かったんだもん。
娘にも辛い想いをさせているのだと思ったんだよ。
その自分が許せなかったんだよ。
娘はね、泣くなって言われるのはちょっとだけしか辛くないんだって。
それより、怒られてるあいだに好きなことをできないほうが辛いんだって。
遊ぶ暇があったら勉強しなさいって言葉があるけど、プーちゃんは怒ってる暇あったら遊ばせてほしいんだね。
一人ひとり考え方が違うもんだなぁ。
今目の前にいるプーちゃんを、一人ひとりを、大事にしようと思った出来事だった。
面白いな。いい勉強になりました。
(Midori Rahma Safitri)
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