姑サーちゃん、イボおばさんから高価な布を買ってひと騒動おこす

「それ、詐欺じゃん!」

私の話を聞いて、義妹ノプの声は裏返った。

「イボおばさん、何やってんのよ」

アティ姉さんは呆れながら怒っている。

私たち3人は、姑サーちゃんが購入したバティック布について話をしていた。

ゴールデンウィークも終わりかけのある日。

イボおばさんが我が家に立ち寄った。

イボおばさんは舅の一番下の妹だ。

こちらの女性にしては珍しく、タバコをすう。

家事はさっぱりできない。

だが、商売っ気がある。

ほとんど白髪ばかりの長い髪をお団子にして、毎日自分の足で元気に歩いて服などを売っている。時々行商の途中に我が家に寄って、コーヒーを飲みながら姑サーちゃんと話をするのだ。

しかし、サーちゃんはイボおばさんのことを嫌っていた。口うるさいらしい。

全くその通りで、口うるさい二人が自分の話したいことを優先的に話すので、サーちゃんとイボおばさんの会話はいつもケンカっぽい。ただの似た者同士じゃないの、と私は思っていた。

イボおばさんは親戚内でも煙たがられている。一番年配の部類にあたるので誰も面と向かって注意することはないが、お金に対してややがめつい一面があるからだ。

どうやらイボおばさんは服の行商をしながらお金の貸し借りもしているらしい。我が家へ来ると、いつもお金の話をする。お金の話は別に構わないが、たいていがお金を貸してほしいだとか、誰それがお金を返してくれなくて困っているだとか、この服/アクセサリーを買わないかだとかで、あまり聞きたくない話なのだ。

そんなイボおばさんが、我が家にやってきた。

村の人々が新型コロナウィルスで外出を自粛していても我が家に寄ってくれるイボおばさんは、いつしか姑サーちゃんのよき話し相手となっていた。時々話がかみ合わなくなっているサーちゃんのことも、「認知症なんだよ、嘘をついているわけではないので勘弁してね」と伝えていた。

イボおばさんは、いつものように売り物の服たちを大きな布に包んで持ってきていた。「みどり買わない?」と言われたが「買わない」と答えた。色もデザインも私のほしい服ではなかったからだ。

前々日に姑サーちゃんとイボおばさんは二人でシラミの取り合いっこをしており、この日もそのまま二人で話し込みそうな雰囲気だったので、私は二人をおいて市場へいくことにした。

それで、私が市場から家へ帰ってきたときには、姑サーちゃんはバティック布を手にしていたのだ。

私はイボおばさんに聞いた。「おばさん、この布どうしたの?サーちゃんが買ったの?おばさんがあげたの?」

買ったんだよ、とイボおばさんではなくサーちゃんが答えた。

サーちゃんは続けた。

「だって、もうすぐレバラン(断食明け大祭。服を新調することが多い)だしさ。」

そうだけどと反論しようとしたが、サーちゃんの話の勢いはとまらなかった。

「25万ルピアだよ。みどり、25万ルピアちょうだいってパット(姑の一番上の息子)に言っておいてね。」

25? いやいや、冗談じゃないよ。

私はキッとイボおばさんを見た。

「おばさん、なんでサーちゃんにこの布売ったのよ」

「だってほしいって言うから」

ごもっとも。でもさ、姑サーちゃんは認知症だって伝えたでしょ。ほしいものはほしいって言っちゃうのよ。お金はどうするのよ。

「スマトラ島の息子から200万ルピアお金もらったって聞いたわよ」

あちゃー。そうなのだ。姑サーちゃんはスマトラ島に住んでいる前夫との間の息子・ブユン兄さんに電話でお金頂戴お金頂戴と言い続けてお金を振り込んでもらったのだ。

私たちはブユン兄さんに「必要なお金は渡しているから、話は聞き流しておいてね。電話で声が聞こえるだけでうれしいんだから」と伝えていた。が、ブユン兄さんは不憫に思ったのかお金を振り込んでくれた。200万ルピアだぞ。きっとブユン兄さんの月収くらいだ。どれだけ一生懸命働いて貯めたお金だったことか。

サーちゃんにはお金が振り込まれたことは伝えていたが、全額は渡しておらず、パット兄さんが管理していた。サーちゃんは持ったお金はすぐに使ってしまうからだ。

なのに、ああ、サーちゃん。お金をもらったことを話してしまったのか。そりゃあイボおばさんは売ろうとするよね。サーちゃんもレバランに新しい布がほしかったのはわかるよ。

でもさー。なんだよ、25万?この品質で?

しかも私のいないあいだにシャーシャーと売りやがって。

私はもう一度イボおばさんを見た。

「おばさん、これ25なの?」

「そうだよ、これはブランドものだからね。ちゃんとブランド名も布にあるでしょ」

私は布を手に取った。たしかにブランド名は書いてある。でも…この仕上がりで25?納得いかない。

バティック布は、質によって値段がまったく異なる。姑の買ったものは普段着用の腰巻にするもので、一番安いものなら7万ルピアくらいで買える。上物はキリがない。

姑の買った布はどうだ。たしかに7万のものよりはいい感じだけど、25はないと思うなぁ。15くらいのものじゃなかろうか。

だけど、残念ながら私にはバティックの目利きの自信はない。

くっそー、(たぶん)25じゃないのに認知症のサーちゃんに25でつかませるなんて、腹が立つ。

私では埒が明かぬと思い、夫を呼んだ。

家で半分寝ていた夫は、事情をきいて目をひん剥いてイボおばさんとサーちゃんがいるところへズカズカやってきた。

そして、夫はイボおばさんではなくサーちゃんに向かって怒った。

「おい母さん、なんで布買ってんだよ。歩いて外にでることもないのに!」

「サーちゃんに怒ることはないでしょ」と小声でささやくと、夫は背中の後ろで私に「いいから黙ってな」と手で合図をした。

その後も夫はサーちゃんに対して怒り続けた。

なるほど…。イボおばさんが横から「だったらいいよ」というのを待ってるんだな。

しかし、イボおばさんもサーちゃんも我が強い。どちらも手を引くことはなかった。

夫の根負け…(笑)。

結局、サーちゃんは買った布を胸に抱きしめて昼寝をしはじめた。イボおばさんはそそくさと荷物をまとめて我が家を出ていった。

この日の夜、我が家へサーちゃんの様子を見に来たパット兄さんに布の話をした。パット兄さんは布を確認し、サーちゃんを一喝。私には「僕からイボおばさんに話すよ」と言い、この話を引き受けてくれた。

翌朝、パット兄さんから「イボおばさんに15万ルピア支払ったよ」と電話があった。「みどりはイボおばさんが何を言ってきても、これ以上払わなくていいから」と念を押された。

午後、イボおばさんはパット兄さんの予言?どおり、私に10万ルピア払ってと言いに来た。兄さんが支払った分と合わせて25万ルピアにするつもりなのだろう。

私は「パット兄さんから支払いがあったでしょ」と適当にイボおばさんをかわし、今日、パット兄さんとお嫁さんのアティ姉さんの家へいって報告した。

この報告を聞いたときの反応が冒頭のシーン。パット兄さんはお祈りをしていたので、アティ姉さんと隣に住む義妹のノプが私の話を聞いてくれたってわけ。

「みどりにまで支払わせようだなんて」

「そもそも25万ルピアって!」

2人がイボおばさんのことをコテンパンに言うのを聞きながら、私は思った。

イボおばさんの身になったら、25万ルピアで一度話がまとまっていたのだから、損したってふうに思うのかな。しかも、イボおばさんはサーちゃんの認知症のことがよくわからなかったのかもしれない。

でもさ、イボおばさん。これじゃ寂しいでしょう?

おばさんは長年自分で自分の食い扶持を稼いできて素晴らしいけど、誰かを悲しませたり怒らせたりするような売り方は客や友達をなくしていくと思うよ。

(Midori Rahma Safitri)