ヒヨコを救出した話ー子どもに「何もできなかった」と思わせたくなかった

パギー(おはよう)、みどりやで。

昨日、側溝に落ちたヒヨコを助けようとしている現場に出くわした。

今日の記事はその日記エッセイ。

ヒヨコとの出来事をとおして地域での子育てについて書いているので、そのあたりを読んでいただけるとうれしいな。

じゃ、はじまるよ~。

お昼前、市場からの帰り道。

惣菜屋のFさんちの斜め前で、小学生の男の子イジャンが道の脇の大きめの石に腰かけて、何やら工作のようなことをしていた。

プラスチックのコップに紐を結び付けている。

何をしているのかと尋ねたら、彼の様子を見ていたFさんから答えが返ってきた。

「ヒヨコが溝に落ちたんだよ」

「え!?」

「そこ」

「死んじゃったの?」

「生きてるよ」と今度はイジャンから返ってきた。

どれどれ…とかがんで溝を覗いたが真っ暗で何も見えない。

ヒヨコが落ちたのは道路沿いの側溝で、しっかりセメントで覆ってある。しかし、その覆いは葉書よりもう一回り小さいサイズの穴が空いていた。

この穴から落ちたってことだな。

「イジャンはそのコップでヒヨコを取り出そうとしてるの」

再び、Fさんの声がした。Fさんはそのまま誰かに電話をかけはじめた。

なるほどなぁ。でも、そのコップ、ヒヨコが乗るにはちょっと小さそうだ。

そのとき、側溝のフタに親と思しきニワトリがやってきて、中にむかってコッコとフタをつついた。中から小さくピィピィ聞こえた。

「生きてるね!」

「うん…」

親ニワトリも我が子がここに落ちたことはわかっているんだな。

イジャンは40センチほどの竹の棒をもってきたが、何かアイデアがあるわけでもなさそう。蓋の穴に棒をいれてトントンと底をつついているだけだった。

ブスッとして、何も話さない。

自分自身への小さな怒りと無念さとが滲み出ていた。

私はこのままではダメだと思った。

何がダメなのかよくわからないけれど、イジャンにこんな顔をさせたまま何も手を貸さない大人になりたくなかった。

「ちょっと中を見てもいい?」

イジャンが場所を譲ってくれたので、私も竹の棒をつつきながら、もう一度穴から溝を覗いた。

さっきは目が慣れていなかったけど、今度は水が中に入っているのが見えた。竹から感じる様子からして、底から数センチと浅かった。しかし、思っていた以上に側溝は深かった。これじゃ穴から手を伸ばしても届かないなぁ。

それに、ヒヨコはどこにいるんだろう?

トストスと竹でつついているとヒヨコの声がした。まだ近くにいる。

どこだ?

よくよく眼を凝らすと、薄白くヒヨコのシルエットが見えた。

「あ、いた、ここだ」

まだ元気そう。歩いているから大きなケガもないみたいだ。

Fさんはまだ電話をしていた。Fさんのお父さんも傍で座ってこちらを見ていた。

絶対にイジャンに「僕、何もできなかった」「それに、大人も見て見ぬふりをした」と思わせるものか。

もしもヒヨコが死んでしまっても、ヒヨコのために手を尽くす大人の背中を見せるんだ。一生懸命にやってダメだったら…ヒヨコには申し訳ないけれど、仕方がない。

私はほとんど道路に腹ばいになっていた。

「このフタ、開けられないの?」

私の声に、Fさんの父親が「開かないと思うよ」と言いながらも棒状の鉄を持ってきた。地震後の瓦礫でこのようなものは比較的すぐ見つかる。

テコの原理で蓋を開けようとするがビクともしなかった。

「これはダメだなぁ」

Fさんの父親は家のテラスに腰かけた。

いやいやいやいや、ヒヨコ生きてるんだよ!

なんとかここから出してあげたい。母ニワトリから離れたうえに真っ暗で怖いだろうに。

どうしたらヒヨコを取り出せるのか、冷静に考えた。

取り出し口はこの穴しかない。

ハンマーでこの蓋ごと叩き割る手もある。しかし、そうすれば割れたものがボロボロと底に落ちて、ヒヨコを傷つけるかもしれない。それに、また元に戻すのも大変だ。

麺類を茹でるときに使う、湯切り用の道具(てぼ)があればいいのになぁ。

てぼならヒヨコを掬いあげることができるんじゃない?

でもここにはそんなものはないし、おそらくてぼが穴に入らないだろう。仮に入ったとしても、それだけ高さがあったらヒヨコがてぼの中に入れないし。

何か…もう少し平たくて…小さくて…柄があって…。

網じゃくし…?

家にある!

▲これ。我が家ではベーグルを茹でるときに使っている

「ちょっと待っててね」

イジャンに伝えて、私は家に帰った。

網じゃくしを持って、娘と義母に事情を話してまたすぐに現場にもどった。

「これ!」

網じゃくしを見せると大人たちは少し笑った。そんなのでヒヨコを引き上げることができるのかなぁと半信半疑なようす。

とにかく、やってみないとわからない。

また道路に腹ばいになって、穴に網じゃくしを入れる。うまい具合に入ってくれた。

しかし、腕を突っ込むと穴から側溝の底を覗くことができなくなり、ヒヨコのいる場所が確認できない。

うーむ、網じゃくしの上にヒヨコの好きなエサでも乗せてヒヨコがくるのを待つか…?

考えていたら、Fさんが携帯電話のサーチライト機能を使って、側溝内を照らしてくれた。

横から、幼い子を連れて遊んでいたJさんが「その杓子と竹を結んだら?」と提案してくれた。

Fさんの父親がすぐに紐を括りつけ、そのままFさんが懐中電灯がわりの携帯電話片手に網じゃくし+竹のヒヨコ救出・特製道具を側溝へ入れた。

しばらくして、Fさんが叫んだ。

「イジャン!ヒヨコヒヨコ!とって!」

▲やったーーーーーー!

イジャンの大きな口がほころぶのが見えた。

私がよかったなぁと思う間もなく、イジャンは手の中にそっと包み込んだヒヨコを道に放した。

ヒヨコは元気に歩いて、近くに来ていた母鶏のもとへと駆け寄った。

▲母ニワトリの右隣にいるのが救出したヒヨコ

ヒヨコを抱き上げたときのイジャンの顔を写真に収められずに残念。距離が近すぎて後ろにひけなかったよ。

でも、間近で彼のうれしそうな顔が見られたから本当によかった!

イジャン、これから大人になるとね、大切な人やものを守りたくなるよ。

だけどね、守れない日があるかもしれない。

何もできずに大切な人やものを喪失する悲しみを背負う日がくるかもしれない。

それでもイジャン、覚えておいて。

君は一人でヒヨコを救おうとしたね。

はじめはうまくいかなかった。

だけど、君は優しい子だよ。

自分の無力感が悔しいときは、時間をかけてその悔しさを強さにかえるんだ。

もう一度言うよ。君は優しい子だ。イジャン、君ならできる。

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